奥武線 鉄道小噺 第15回

変わりもの列車で行こう!その③

今回も奥武鉄道の時刻表から一風変わった列車を取り上げていきます。さあ、変わり者列車で、出発進行!

幻の種別、区間快速は存在するか?

奥武鉄道は私鉄の中でも列車種別は多い方だ。旅客列車だけでも各駅停車、準急、直達準急、区間急行、通勤区間急行、急行、普通、快速、特急(厳密には特急とA特急の2種類)と中山道ライナー、中山道エクスプレス、とちぎエクスプレスがある。各駅停車と普通はどちらかというと停車パターンというより車種による分類に過ぎないが、それを一つとカウントしても9種類以上の種別がある。しかし、直達準急や通勤区間急行などという複雑怪奇な名称の列車が存在する一方で、快速の一つ下に当たる「区間快速」はない。他社ではむしろ快速があれば(少なくともこれだけ種別があるなら)区間快速もあっておかしくなさそうなものだが、不自然といえば不自然である。実際奥武鉄道の広報課になぜ区間快速がないのかと問い合わせてみると、「特に理由はありませんが、元々快速列車が設定された背景には官営鉄道との競合があり、昭和10(1935)年に運行を開始した初の快速列車が新宿~喜多方間を結ぶ快速『白虎』号、それに次いで翌年に運行を開始するのが新宿~奥武日光間の『なんたい』、『にょほう』であったことからも分かるように、快速列車は特別料金こそ取らないものの当社にとって基軸路線における中長距離輸送を担う特別な存在でした。当時は使用される車両も普通列車運用とは完全に分離した特別な客車を用いており、そのような出自もあって一部区間で地域輸送にも従事する区間快速という発想自体が出て来なかったものだと思います」との返答。戦後になると昭和35(1960)年に気動車特急『あかべこ』(新宿~会津若松・喜多方)の運転開始と入れ替えに昼行快速列車の愛称は廃止され、白田線開業や上岩線の編入、奥武線直流電化区間1500V昇圧による秩父鉄道乗り入れ再開、大子線奥袋田開業や旧東野鉄道(大田原線)編入などを経て瞬く間に快速列車の特別感が薄れるとともに奥武線のほぼ全線にわたるネットワークを形成する(大田原線への快速設定は厳密には大田原乗り入れ特急廃止後の平成2(1990)年)。その結果大子線内や大田原線内では地域輸送の一端も担うようになり、「快速列車が各駅に停車する区間」が初めて生まれることになった。とはいえ、これらの区間も含めて列車種別はあくまでも「快速」であり、時刻表のどこを見ても「区間快速」という列車は存在しない。しかし、噂によれば一部鉄道ファンから「区間快速」と呼ばれる列車が1日1本だけ走っているという。一体どういうことだろうか。

再び広報部に問い合わせてみた。担当の方が笑って答えてくださったことには、「当社には区間快速と称する列車はありませんが、一部のファンの方が朝6時過ぎに会津若松を出る上り列車をそう呼ばれていることは把握しています」という。時刻表を見ると朝6時台に会津若松を出る上り列車は6時10分発の810D列車普通白河行きと、6時47分発の2E列車特急白虎2号新宿行きの2本。まさかA特急である白虎2号が「区間快速」であるわけはないので、810Dということになろうか。車両運用表を見てみると、810D列車に入る車両はキハ4000系気動車3両からなるDR14運用で、なるほど6時10分に会津若松を出て7時38分に白河に到着した後、白河から出庫するキハ4000系気動車3両のDR15運用と連結し、白河8時25分発の10D列車快速新宿行きとなって新宿を目指す。白河駅では停車中に先述の上り2E列車特急白虎2号新宿行きが7時45分着、48分発で追い抜いていくほか、7時36分に白河に先着していた普通烏山発岩代長沼行き817D列車が810Dと2Eの到着を待って7時48分に下って行く(キハ4000系3両DL27運用)が、なるほどこの間に磐岩線上り到着ホームないし奥武本線上り外側ホームに停車していれば他列車の干渉を受けることなくホーム上で増結作業を行うことができる(ちなみにこの間白田線では7時40分にキハ100形2両による上り白河止まり902D列車が到着し7時41分にキハ4000系3両DL23運用による下り白河始発南郷行き903D列車が出て行くが、これらの列車は白田線ホームで処理できるため、磐岩線や奥武本線の列車の出入りには干渉しない)。もし7時38分に白河に到着した810D列車がそのままホーム上でドアを開いた状態で増結作業を行うとしたら、確かに白河での停車時間は長くとも会津若松から新宿へ向かう「区間快速」(会津若松~白河間普通、白河~新宿間快速運転)とでも呼びたくなるのは分かる。

7月の平日、件の810D列車に会津若松から乗車してみた。1日たった3本の勢至堂峠を越える普通列車の1本ではあるが、朝早いことに加えこの列車の前後には5時30分会津若松発の上り102E列車特急あかべこ2号や先述の6時47分会津若松発上り2E列車特急白虎2号も走っているため、乗客数は少ない。1両に10人弱、3両で30人ほどの乗客を乗せて列車は会津若松を出発する。峠越えの途中にある金堀では誰も乗り降りがなかったが、赤井谷地沼野植物群落が近い会津赤井で5人、会津湊で10人程度が降りた。崎川浜湖水浴場に面する静潟でも真夏とだけあって数人が下車。その後赤津、福良、三代と2-3人ずつ降りて三代を出る頃には車内には私の他に地元のご婦人が一人のみとなった。峠の山中にある勢至堂駅に着くと眼下には小さな集落が見えるが、どれほどの人が住んでいるのであろうか。しかしここ勢至堂駅では地元の高校生と思しき乗客が一人乗って来たのが意外であった。

ループ線を降りて江花では乗り降りなし。しかし次の岩代長沼では先程のご婦人が降りたのと入れ替えに一気に高校生が17人乗って来た。なるほど、810D列車は会津若松を出るのは6時10分と少々早いものの、岩代長沼発は7時06分、白河着は7時38分と、沿線の高校生にとって白河の高校に通うのにちょうど良い時間帯の列車なのだ。その後も天栄、大信などからまとまった数の高校生が乗って来て北白河を出る頃には車内の人数は50人を超えていた。

​さて、白河に到着する直前、私は車内アナウンスに耳を傾けていた。「ご乗車有難うございます。列車はただ今定時で運転しております。間もなく白河、終点白河に到着いたします。奥武本線の上り黒羽、笠間、浦和方面と、白田線の会津田島方面はお乗り換えです。白河に到着します。到着番線は9番線、お出口は右側です。お乗り換えのご案内です。奥武本線上り、笠間、浦和停車の特急白虎号新宿行きはお隣7番線から7時48分発です。ご乗車には白虎2号の指定特急券が必要です。お持ちでないお客様は駅窓口にてお買い求め下さい。その後奥武本線上り快速新宿行きは8時25分発、ご乗車のこの列車が新宿行きの快速列車となります。その後黒羽、七合、笠間、筑波山口、浦和停車の特急あかべこ4号新宿行きは8時33分、黒羽で快速列車に追いつきます。ご乗車にはあかべこ4号の指定席特急券が必要です。白田線の南郷行きは7時41分、階段渡りまして白田線ホーム2番線からの発車となります。まもなく白河、白河です。」一応終点白河、とは言っているもののちゃんとこの列車が10D快速列車になることをアナウンスしているではないか!白河駅の一番北のホームに列車が入線すると、何とホーム前方にはすでにキハ4000系がもう3両停車しており、810D列車はこの車両にゆっくりと近づいて連結器がぶつかる衝撃と同時に停車。開いたドアからホームに降りるとホーム上発車案内板の表示は「8:25 快速 新宿」。そう、810D列車の白河到着は、白河駅にとっては紛れもない「新宿行き快速列車の到着」なのだ。北端の9番線に到着した810D列車は乗務員が交代し、到着と同時に「本日も奥武鉄道を御利用頂き有難うございます。この列車は快速新宿行きです」と車内アナウンスが流れる。増結は駅到着の瞬間に行われ、6時47分に会津若松を出た白虎2号が7番線に滑り込む頃には正面の種別表示も「快速」に切り替わっていた。

確かに、乗ってみるとほぼ一列車であると言いたくなる普通810Dと快速10D。「区間快速」という通称がついてしまうのもなるほどと頷ける。磐岩、岩羽線の普通列車を意味する「800」を除けば下二桁が10Dで統一されているというのもあるいは一列車であることを気づかせる意図があるのか?ないのか?(もっとも時刻表を見る限り列車番号は順番に振られているので単なる偶然のようだ。ちなみに磐岩線の上り列車としては一見欠番に見える802Dは、黒羽発会津若松行き下り815D列車の送り込みを兼ねた早朝の奥武本線上り白河発黒羽行き普通列車に振られており、本来会津支社管内の普通列車に振られる800番台の列車番号が車両運用の関係から奥武本線内で完結する列車に与えられている唯一の例となっている。)

分割併合の多いキハ4000系ゆえほかにもこのような「実は一列車」という運用があるのではないかと運用表に目を凝らすが、同一方向の列車に連続して入る運用というのはこの810D→10D(DR14運用)のほかには会津若松を境にした827D→829D(DL28-1運用)があるのみで、ましてや普通列車と快速列車を同一方向で通し運転する運用というのは上下合わせてもDR14運用のほかに存在しない。

なおこのDR14運用のキハ4000系3連であるが、白河でDR15運用の3連と併合した後は10Dで新宿まで行った後折り返して快速11D列車となり、七合でDR15運用3連と別れて単身会津田島に向かう。会津田島からは一旦912D列車で白河に戻るものの折り返し915Dに入ってその日は南郷で一日を終えるのだ。1日の間に勢至堂峠を1回、甲子峠を3回、それに駒止峠を1回越えループ線の通過は実に11回。会津から都心まで往復した上で夜は奥会津の南郷で眠る。いやはやキハ4000系の老体には何とも手厳しい運用である。

磐岩線上り(上段)と奥武本線上り(下段)の朝の時刻表。時刻表だけを見ても分からないが実は6時10分に会津若松を出た810D列車は白河到着時に前方に3両を増結して8時25分白河発の快速10D列車に化けている。これが幻の「区間快速」の正体。そもそも磐岩線を通し運転する普通列車自体が1日3往復しかないだけに、貴重な運用だ。